中学生でもわかる電子工作教室

入門書はあってもその次がない電子工作の学びを助けたいという思いで作られたブログです

【第5回/全10回】フェーザ法

 前回複素数を学びましたが、今回はいよいよ複素数を使って交流回路を四則演算(\(+,-,\times,\div\))で解く方法である、フェーザ法について説明します。

 しかし、フェーザ法は電子工作では基本的に使わず、実際に使うのはフェーザ法から導かれた次回の「インピーダンス」になります。次回の記事が理解しやすくなるかもしれないので説明しますが、難しい場合はこの記事を飛ばしても大丈夫です。

 また、フェーザ法では直流成分と初期条件の影響は無視し、十分に時間が経って安定した時の交流電流と交流電圧の関係を導きます。

 

 

フェーザ法のアイデア

 例えば、下図のような回路では、次のような回路方程式が立てられます。

\[L\frac{di}{dt}+\frac{1}{C}\int i dt+Ri=E_m\cos (ωt+θ)\tag{0}\]

 コンデンサ積分についてですが、フェーザ法では直流成分(定数部分)や初期条件を無視するため、不定積分、かつ積分定数\(\mathrm{C}=0\)として考えます。

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1.\(e^{jx}\)への置き換え

 ここで、とりあえず意味は分からなくていいので、\(\cos(ωt+θ)\)を\(e^{j(ωt+θ)}\)に置き換えてみます。すると、

\[L\frac{di}{dt}+\frac{1}{C}\int i dt+Ri=e^{j(ωt+θ)}=(E_me^{jθ})e^{jωt}\tag{1}\]

 ここで、右辺が(定数)\(\times e^{jωt}\)であることから、この方程式を満たす電流の関数\(\dot{I}(t)\)(微分方程式の解といいます)が、\(\dot{I}(t)=\dot{A}e^{jωt}\)の形になると予想してみます(駄目だったらまた予想を変えてやってみます。これを未定係数法といいます)。\(\dot{I}(t)=\dot{A}e^{jωt}\)を代入して、

\[L\frac{d(\dot{A}e^{jωt})}{dt}+\frac{1}{C}\int(\dot{A}e^{jωt})dt+R(\dot{A}e^{jωt})=(E_me^{jθ})e^{jωt}\]
\[jωL\dot{A}e^{jωt}+\frac{1}{jωC}\dot{A}e^{jωt} dt+R\dot{A}e^{jωt}=(E_me^{jθ})e^{jωt}\tag{2}\]
\[\dot{A}=\frac{E_me^{jθ}}{jωL+\frac{1}{jωC}+R}\]
\[I(t)=\displaystyle\frac{E_me^{jθ}}{jωL+\frac{1}{jωC}+R}e^{jωt}=\displaystyle\frac{E_me^{j(ωt+θ)}}{jωL+\frac{1}{jωC}+R}\]

 これによって、とりあえず\(\cos(ωt+θ)\)を\(e^{j(ωt+θ)}\)に置き換えた式(1)の解\(\dot{I}(t)\)が求まりました。

2.\(e^{jx}\)の意味

 さて、ここで\(e^{j(ωt+θ)}\)が何かを考えてみましょう。\(e^x\)のマクロリーン展開(関数を多項式で表す方法です。聞いたことないかな…)は

\[e^x=1+x+ \frac{1}{2!}x^2+\frac{1}{3!}x^3+\frac{1}{4!}x^4+\cdots+\frac{1}{n!}x^n+\cdots\]

 です(これの証明は高校でも習いません。こういうものがあるんだなと思ってください)。これで\(x=jx\)とすると、\(j^2=-1\)ですから、

\[\begin{align}
e^{jx} =&1-\frac{1}{2!}x^2+\frac{1}{4!}x^4+\cdots+(-1)^n\frac{1}{(2n)!}x^{2n}+\cdots\\+j\{&x-\frac{1}{3!}x^3+\frac{1}{5!}x^5 +\cdots+(-1)^n\frac{1}{(2n+1)!}x^{2n+1}+\cdots\}\end{align}\]

 そして実は\(\cos x\)、\(\sin x\)のマクロリーン展開は

\[\begin{align}\cos{x}&= 1 - \frac{1}{2!}x^2 +\frac{1}{4!}x^4+\cdots+ (-1)^{n}\frac{1}{(2n)!}x^{2n} + \cdots\\\sin{x}&= x - \frac{1}{3!}x^3 +\frac{1}{5!}x^5+\cdots+ (-1)^n\frac{1}{(2n+1)!}x^{2n+1} + \cdots\end{align}\]

であるので、最終的に

\[e^{jx} =\cos x+j\sin x\]

となります(オイラーの公式)。今回の場合、\(e^{j(ωt+θ)} =\cos (ωt+θ)+j\sin (ωt+θ)\)

より、\(\dot{I}(t)\)は

\[L\frac{di}{dt}+\frac{1}{C}\int i dt+Ri=E_m\{\cos (ωt+θ)+j\sin (ωt+θ)\}\tag{1'}\] 

の解だったことが分かります。

3.(0)式の両辺の実数部分を取り出して解とする

一旦、実数関数\(i_{Re}\)、\(i_{Im}\)を用いて

\[\dot{I}=i_{Re}+ji_{Im}\]

と実数と虚数に分けて代入すると、

\[L\frac{d(i_{Re}+ji_{Im})}{dt}+\frac{1}{C}\int (i_{Re}+ji_{Im}) dt+R(i_{Re}+ji_{Im})\\=E_m\{\cos (ωt+θ)+j\sin (ωt+θ)\}\]
\[\begin{align}L\frac{di_{Re}}{dt}+\frac{1}{C}\int i_{Re}dt+Ri_{Re}+&j(L\frac{di_{Im}}{dt}+\frac{1}{C}\int i_{Im}dt+Ri_{Im})\\=E_m\cos (ωt+θ)+&jE_m\sin (ωt+θ)\end{align}\]

 実数部分と虚数部分は独立しているので(複素数をベクトルのように表した図を思い出す)、両辺の実数部分だけを取ることができ、

\[L\frac{di_{Re}}{dt}+\frac{1}{C}\int i_{Re}dt+Ri_{Re}=E_m\cos (ωt+θ)\]

 よって式(0)の解は

\[I(t)=i_{Re}(t)=\mathrm{Re}\left(\displaystyle\frac{E_me^{j(ωt+θ)}}{jωL+\frac{1}{jωC}+R}\right)\]
※\(\mathrm{Re}(\dot{Z})\)は\(\dot{Z}\)の実数部分(Real Part)だけ取る演算子

となることが分かります。これで問題は解けました。

 今回の例ではRLC直列回路を考えましたが、もっと複雑な回路で、キルヒホッフの法則を使うなどして、扱う電流と電圧を一つずつにしたときに

\[\begin{align}(&L_1\displaystyle\frac{di(t)}{dt},\cdots,L_p\displaystyle\frac{di(t)}{dt},\\&\displaystyle\frac{1}{C_1}\int i(t) dt,\cdots,\displaystyle\frac{1}{C_q}\int i(t) dt,\\&R_1i(t),\cdots,R_ri(t))\text{の加減}\text{乗除の塊})=E_m\cos(ωt+θ)\tag{0}\end{align}\]

となっていたとしても、書き換えを行うことで

\[\begin{align}(&jωL_1\dot{I}(t),\cdots,jωL_p\dot{I}(t),\\&\displaystyle\frac{1}{jωC_1}\dot{I}(t),\cdots,\displaystyle\frac{1}{jωC_q}\dot{I}(t),\\&R_1\dot{I}(t),\cdots,R_r\dot{I}(t))\text{の加減}\text{乗除の塊})=E_me^{j(ωt+θ)}\tag{1}\end{align}\]

となり、四則演算で解くことができるようになるのです(証明はしないが実際に計算してみると左辺が(複素定数)\(\times\dot{I}(t)\)という形になるため。このあとは\(\dot{I}(t)=\)の形にして実数部分を取り出せばよい)。

フェーザ法とは

※難しければ覚えなくていいです。

 フェーザ法では

\[E_m\cos(ωt+θ)→E_me^{jθ}\]
\[I_m\cos(ωt+φ)→I_me^{jφ}\]
\[\frac{d}{dt}→jω\]
\[\int dt→\frac{1}{jω}\]

と置き換えを行って、四則演算で解き、不明な部分を求めることで解を導きます。分からないものが電流であるならば、分からないけどとりあえず\(i(t)→(I_m\cos(ωt+φ)→)I_me^{jφ}\)と置き換えを行って、\(I_m\)と\(φ\)を求めて\(I_m\cos(ωt+φ)\)の形に戻せばいいです。

 「フェーザ法のアイデア」の(2)式の両辺を\(e^{jωt}\)で割ったものをヒントにすればこの置き換えが成り立つことが分かるのではないでしょうか。
 しかし、最終的な解の求め方は「フェーザ法のアイデア」で説明したものと違います。「フェーザ法のアイデア」では答えに至る一歩手前で\(\dot{A}\)を求めていましたが、実は\(\dot{A}\)が、\(|\dot{A}|=I_m\)、\(\arg\dot{A}=φ\)を満たす\(\dot{A}=I_me^{jφ}\)となります(理由は省略させていただきます)。なので、その時点で絶対値と偏角を求めて、\(i_me^{jφ}→I_m\cos(ωt+φ)\)と元に戻すことで解が求められます。

 以上は逆に電流が分かっていて電圧が分からない状況でも代わりに\(V_m\)と\(θ\)を求めること以外は同じです。